医療安全の取り組みが本格化しようとしている2001年に、九州大学で仕事を始めることになりました。その直後、九大工学部の教授が「一緒に何かできませんか」と声をかけてくださいました。長いことトヨタ自動車で工程管理・品質管理の仕事をされていた方・・・というか、後からわかるのですが「神様」と言われていたような方で、我々としては「是非!」とお願いすることになりました。その後JSTの研究班を立ち上げられ、そのメンバーに入れていただくことにもなりました。研究テーマは「産業界と医療界の安全管理」・・・産業界が医療界に学べることはないか、医療界が産業界から学べることはないか、といったイメージです。時はこれから医療安全をどのように進めていくかを検討しているところ、もちろん本学会の設立もまだでした。

さて、その研究。当方としては、産業界から学ぶ気満々だったのですが、産業界の方もいろいろ学んでくださったようで、「どうしたらこんな劣悪な環境のなかで(間違えずに)仕事ができるのですか?」と褒められたのかあきれられたのか。産業界の、エラーを起こしにくいようにするための環境整備や様々な工夫を目の当たりにして、医療界の、狭い、暗い、さらには多重タスク、絶えず中断・・・と比べ、その違い、さらには、安全に関する理論を産業界がどのように現場に落とし込んでいるのか、他の業界から学ぶことがたくさんあることを実感した経験でした。

以来工学部の教授から様々なことを学びました。「5Sは“異常”を発見する環境作りです。」「医療現場は平気で自分達が作ったルールを守らなのですね。ルールは守ってこそ、それでも守れない時が来て、ルールが悪いのか環境が悪いのか、改善が始まることになります。」「データはどんどん出しましょう。出して視えるようにしましょう。比較できるようにしましょう。視えて、比較できるようにすれば、気付けるようになります。どうして違うのか、どこに問題があるのか、自分で考えられるようになります。そうしたことに気付けるような見せ方、考えられるようになる見せ方が大事です。」・・・さらには、「安全」に対する社会的許容範囲のことなど。

そしてこんなことも。「医療現場が頑張っていることはよくわかります。で、前より安全になったのですか?安全になったといことをどうやって示すのですか?」

さて、想像してみてください。来年の4月、オリエンテーションで「当院の安全管理」についてお話しされたとします。元気な新人君が質問してきたとします。「いろいろやっていることはわかりました。で、前より安全になったのですか?」・・・なんとお答えになりますか?

日本の医療安全について「取り組みが始まって20年」が語られるいまなおの、宿題です。

 

鮎澤純子:九州大学大学院医学研究院 医療経営・管理学講座
       九州大学病院 病院長補佐