いくつかの立場で、全国の病院にお邪魔することが少なくありません。医療安全管理者になったのは2003年ですから、この20年間におそらく250~60以上の病院を訪問し、安全管理担当者の話を伺ったり、カルテを拝見したりと相当に深く多くの病院に関わってきました。

 その時、いつも感じることは、個々の病院にはそれぞれの空気が流れているということです。(時には有臭の病院もありますが)無味無臭のはずの空気ですが、明らかにその病院特有の空気があるのです。それは、スタッフの振る舞いや言葉遣い、施設の規模や性格、地域性、そして、患者との関りによって醸成されてきたものなのでしょうが、最初に感じる空気は大抵、その病院の最終的な印象と大きく変わることはありません。レストランに例えるなら、入店した時の印象からオーダーする前に料理が想像でき、実際に戴いても想像通りの料理だったという感じです。

 素晴らしい空気、清々しい空気、サプライズな空気、そしてこってりとした空気と様々ですが、少なくてもこの10年以上は嫌な気分になる空気を感じたことは一度もありません。周りの人の多くが自分より年下になったせいもあるのでしょうか、若いスタッフが生き生きと懸命にプロフェッショナルとしての誇りをもって働いている姿に接するとき、清々しい空気とともにその施設、そして我が国の未来を感じずにはいられません。個々のスタッフが最大限の能力を楽しく発揮できればその組織の未来は洋々たるものです。彼(女)らは素晴らしい専門性、すなわち高度なテクニカルスキルを有してるのです。

 そんな思いに馳せながらふと横を見ると、版の異なるリスクマネジメントマニュアルが数冊並んでいます。20年間で小改訂を含めると40回は版を重ねているでしょう。年々、厚くなってくるマニュアルは「足し算の医療安全」の権化のように思える時もありますが、マニュアル通りの対応で首尾よくいったときは、急に愛しくなったりもします。マニュアル内の細かな決め事は楽しく能力を発揮することの足かせになっていないかなどと心配になることもあります。

 今までやってきたこと、今後できること、いずれも微々たるものでしょうが、システムに偏りすぎた感がある現在の医療安全、もう少し、個の能力・テクニカルスキルを評価・重視していき、さらに素敵な空気を醸成できればと考えています。

兼児敏浩:三重大学附属病院 医療安全管理部 教授